結論:ビアスタイルの違いは「酵母」と「発酵温度」から生まれる
ビールのパッケージには「ピルスナー」「ペールエール」「スタウト」など聞き慣れないスタイル名が並んでいますが、この違いを生んでいる根っこはシンプルです。使う酵母の種類と発酵温度によって、ビールは大きく「ラガー(下面発酵)」と「エール(上面発酵)」の2系統に分かれます。ラガー酵母は10℃前後の低温でじっくり発酵し、雑味の少ないすっきりした味わいになりやすいのに対し、エール酵母は18〜24℃程度のやや高い温度で短期間に発酵し、フルーティな香りや複雑な風味が出やすいという傾向があります。日本の大手メーカーが手がける主力銘柄の多くはラガー系、クラフトビールで香りの個性を打ち出す銘柄の多くはエール系に分類される、とおおまかに捉えると全体像がつかみやすくなります。この記事では、この2系統からさらに枝分かれする主要8スタイルを地図のように整理し、それぞれの代表銘柄を紹介します。
主要8スタイル地図(発酵方式・特徴の一覧)
| スタイル | 発酵方式 | 主な特徴 | 代表銘柄の例 |
|---|---|---|---|
| ピルスナー/ペールラガー | ラガー(下面発酵) | すっきりした喉ごし、麦とホップのバランス型 | アサヒスーパードライ、キリンラガービール、ヱビスビール |
| プレミアムピルスナー | ラガー(下面発酵) | 麦芽の旨味とホップ香に厚みを持たせた上級路線 | ザ・プレミアム・モルツ、COEDOビール 瑠璃、富士桜高原麦酒 ピルス |
| ペールエール | エール(上面発酵) | ホップの柑橘系アロマと麦芽のバランス | よなよなエール、常陸野ネストビール ペールエール、志賀高原ビール ペールエール |
| IPA(インディアペールエール) | エール(上面発酵) | 大量のホップによる強い苦味と華やかな香り | インドの青鬼 |
| ヴァイツェン/白ビール | エール(上面発酵) | 小麦麦芽由来のフルーティな香りとまろやかな酸味 | COEDOビール 白、常陸野ネストビール ホワイトエール |
| スタウト/黒ビール | エール中心(一部ラガーの黒系も含む) | ロースト麦芽由来のコクと香ばしさ、見た目は黒〜濃褐色 | ドラフトギネス、ヱビス プレミアムブラック |
| セゾン | エール(上面発酵) | スパイシーで軽やかな飲み口、ベルギー農家発祥 | 僕ビール、君ビール。 |
| ドルトムンダー/個性派ラガー | ラガー(下面発酵) | ピルスナーよりコクがあり濃色系よりは軽い中間的な味わい | ベアレン醸造所 クラシック |
同じ「ラガー」でもピルスナーとドルトムンダーでは麦芽の使い方が異なり、同じ「エール」でもペールエールとセゾンでは香りの方向性がまったく違います。まずはこの表で自分がどのスタイルに興味があるかの見当をつけてから、次の各スタイルの解説に進むのがおすすめです。
ラガー系スタイルの代表銘柄:すっきり系からコク重視まで
日本で最も流通量が多いのがラガー系です。アサヒスーパードライ・キリンラガービール・ヱビスビールはいずれもピルスナー系ラガーに分類され、麦芽とホップのバランスを取った「すっきり系」の代表格です。アルコール分はいずれも5%前後で、公式にはそれぞれ「さらりとした飲み口、キレ味さえる」(アサヒ)、「非熱処理の生ビール」(キリン)といった言葉で表現されています。同じピルスナー系でも、ザ・プレミアム・モルツ(アルコール分5.5%)やCOEDOビール 瑠璃(IBU25)は、麦芽の旨味とホップの厚みをより前面に出したプレミアムピルスナーという位置づけで、大手の主力ラガーより一段深みのある味わいを求める方に向いています。山梨県の富士桜高原麦酒が手がけるピルスも同系統で、公式には「クリアなキレと苦み」を打ち出すジャーマンスタイルラガーと紹介されており、富士山麓の標高1,000m地点で採水した軟水を使う点が個性です。ラガー系の中でも異色なのがベアレン醸造所 クラシックのドルトムンダーで、アルコール分6.0%とやや高めのボディに、ピルスナーよりコクがありながら濃色系ラガーほど重くはない中間的な味わいを持たせているのが特徴です。輸入ビールにもピルスナー系ラガーは多く、ハイネケン(オランダ、アルコール分5%)・バドワイザー(アメリカ、5%)・コロナ・エキストラ(メキシコ、4.5%)・カールスバーグ クラブボトル(デンマーク発、日本国内向けはサントリーがライセンス生産、5%)・タイガービール(シンガポール、5%)はいずれも公式にピルスナー系として位置づけられています。青島ビール(中国、アルコール分4.7%)は公式表記が「アメリカンスタイルラガー」で、同じラガーの中でもやや個性的な立ち位置です。
エール系スタイルの代表銘柄:香りの個性で選ぶ
エール系はホップや酵母由来の香りの個性を楽しむスタイルが中心です。ペールエールはよなよなエール(アルコール分5.5%)や常陸野ネストビール ペールエールが代表格で、麦芽の旨味とホップの柑橘系アロマのバランスを重視した「クラフトビール入門」の定番です。長野県の造り酒屋・玉村本店が手がける志賀高原ビール ペールエールも同系統で、蔵元自身が「志賀高原ビールの味の基本」と位置づける、麦の香りと心地よい苦味のバランスを重視した一本です。ホップの苦味をさらに強く打ち出したのがIPAで、インドの青鬼はアルコール分7.0%と高めの設計で、グレープフルーツを思わせる華やかな香りと強い苦味が持ち味です。苦味が苦手な方には、ヴァイツェン・白ビール系が向いています。COEDOビール 白はIBU10と苦味価が低く、小麦麦芽由来のフルーティな香りが際立つドイツ伝統スタイル、常陸野ネストビール ホワイトエールはコリアンダーシードやオレンジピールを使うベルギー系のウィートビールで、いずれも苦味を強く感じにくいのが共通点です。同じベルギー系ヴィットビールの本場品であるヒューガルデン ホワイト(ベルギー、アルコール分5%)も、コリアンダーとオレンジピールを使う伝統製法で公式に知られている銘柄です。もう少し軽やかな飲み口を探しているなら、僕ビール、君ビール。のようなセゾンも選択肢になります。アルコール分4.5%と本記事で紹介した中では軽めで、レモンやマスカットを思わせる香りとスパイシーな風味が特徴です。
スタウト・黒ビール:香ばしさとコクを楽しむ系統
見た目の黒さが印象的なスタウト・黒ビール系は、ロースト麦芽由来の香ばしさとコクが持ち味です。ドラフトギネスは黒ビールの代名詞的存在で、缶ウィジェットによる窒素注入方式のクリーミーな泡が特徴として知られています。国産では、ヱビス プレミアムブラックが麦芽100%のダークラガーとして本格的な香ばしさを打ち出しており、キリン一番搾り〈黒生〉は一番搾り製法をベースにした黒ビールとして比較的飲みやすい設計になっています。同じ「黒い」ビールでも、上面発酵のエール由来のコクを重視するか、下面発酵のラガーらしいすっきりした後味を残すかでタイプが分かれる点も、飲み比べると分かりやすい違いです。
まとめ:まずは自分の好みの方向性を1つ決めてみる
ビアスタイルは細分化すると100種類以上あるとも言われますが、「すっきり系のラガーか、香り重視のエールか」という大きな軸さえ押さえれば、店頭で迷う場面はぐっと減ります。大手メーカーのラガーに慣れている方がクラフトビールに挑戦するなら、まずはホップ香が穏やかなペールエールやヴァイツェンから試し、苦味に慣れてきたらIPAへ進む、という順番が失敗の少ない選び方です。逆に「大手ラガーのすっきり感が好き」という方は、COEDOビール 瑠璃やザ・プレミアム・モルツのようなプレミアムピルスナーで、同じラガー系統のまま少し深みのある味わいを試してみるのもおすすめです。好みの方向性を探っている段階では、毎回異なるスタイルの銘柄が届く定期便も心強い味方になります。タイプ別の違いと選び方はビールサブスク比較をご覧ください。
Q. エールとラガーは何が違いますか? A. 酵母の種類と発酵温度が違います。ラガー酵母は低温でじっくり発酵しすっきりした味わいになりやすく、エール酵母はやや高温で発酵しフルーティな香りが出やすい傾向があります。
Q. 初めてクラフトビールを試すなら何スタイルがおすすめですか? A. 苦味が穏やかなペールエールやヴァイツェン・白ビール系から試すと、大手ラガーとの違いを感じつつ苦味の負担が少なく入りやすい傾向があります。よなよなエールやCOEDOビール 白はその代表例です。
Q. IBU(苦味価)はどう見ればいいですか? A. 数値が高いほど苦味の指標が強くなる傾向があります。本記事で紹介した中では、COEDOビール 白がIBU10と穏やかな一方、伊勢角屋麦酒 ペールエールはIBU35としっかりした苦味を持たせています。同じ「ペールエール」という名前でも、銘柄によって苦味の強さには幅があります。
























